CLTの新たな可能性と魅力を示す日本の建築事例を紹介
CLTの新たな可能性と魅力を示す日本の建築事例を紹介
2024/03/30
日本の建築界では、近年、CLTの活用が注目されています。その新たな可能性と魅力を示す建築事例を紹介します。これらの事例では、CLTを使用することで地域の厳しい気候条件にも対応した安全な建物が実現し、同時に持続可能な社会の実現や地域貢献にも貢献しています。それぞれの建築物が、CLTの持つ柔軟性や耐久性を最大限に活かし、美しく機能的な空間を創造しています。
開放性のあるルピシアニセコヴィレッジ新本社
断熱性と遮熱性に優れたCLTは新たな可能性に満ちた建材で、活用事例も着実に増えています。ニセコ町に新しく建設されたルピシアの新本社は、CLTと軸組在来工法を組み合わせることで、厳しい環境に対応できる安全な建物を実現しました。
◇概要
国内・海外合わせて100以上の店舗を持つルピシアの新本社です。ニセコ町に位置するルピシアの新本社は、2023年3月13日に開業しました。この新社屋は、羊蹄山を一望できる場所にあります。
建築には地元の道産カラマツの構造用集成材とCLTが使用され、耐力と破壊性状に優れた接合方法が確認されています。また、新本社周辺の5万坪の土地には、ビール工房や野菜茶工場があり、将来的には茶畑やハーブ園に囲まれたロッジや親水公園が整備される予定です。
オフィス内にはハイブリッド・ワークプレイスが設けられ、柔軟で快適な働き方が可能です。中庭や窓からの景色、多様なコラボレーションスペースなど、創造性を刺激する環境が整えられています。
竣工年月:2023 年2 月
延べ床面積:625.65㎡
CLT利用部分:壁・屋根
所在地:北海道虻田郡ニセコ町字羊蹄
◇CLTと軸組在来工法のハイブリッド
この建物は、ニセコ町の厳しい気候条件と短い工期に対応するために、木造平屋建ての計画が立てられました。特に、積雪量が2mを超える地域であるため、構成部材数を削減するためにCLT部材が使用されました。
円形平面を採用することで外壁面の長さを短縮し、内部仕上げを省略することで工期を短縮しました。円形の形状により、外周壁のみで必要な水平耐力を満たすことができ、内部には余計な耐震壁が必要ありません。放射状に配置されたカラマツ集成材の柱や梁とCLT部材により、シンプルで堅牢な構造が実現されました。
また、屋根においてもCLT部材を露出させることで、美しく安価な接合方法が採用されました。屋根は耐雪型であり、自然の断熱材としても機能するように設計されています。この建物は、風土に根ざしたエコフレンドリーな建築として、北海道の気候条件に適した設計が施されています。
トイグループホールディングスCLT新社屋
株式会社イトイグループホールディングスの新社屋は、「誰でも気軽に立ち寄れる場所」をコンセプトに建てられました。CLT工法にこだわり、サスティナブルでリラックス感のある建物です。
◇概要
トイグループホールディングスの新社屋は、2020年6月1日に移転しました。この社屋のコンセプトは、「誰でも気軽に立ち寄れる場所」であり、環境負荷を小さくし、デザイン性豊かな空間を目指しています。
北海道産のトドマツを使用したCLTは、壁、2階床、屋根に採用され、建物の耐力や耐久性を高めるとともに、デザイン上の柔軟性を提供しています。また、バイオマスボイラーによる床暖房を採用し、地域の木材資源を活用しています。
これは、地域社会への貢献とSDGsへの取り組みを反映したものです。さらに、この建物は特別豪雪地帯に位置しており、-30℃になる厳しい気候条件下でも優れた温熱環境を提供することが求められます。
工法と地域環境の相性や省エネ性能の実証的な検証も行われています。CLTパネルの使用により、大空間オフィスを実現し、建物内外のデザイン性を高め、地域内での発展に寄与するアイコン的な建物として位置付けられています。また、短い工期で建設が行われ、雪の影響を受けないよう工程計画が立てられています。
竣工年月:2020月2月
延べ床面積:464.8㎡
CLT利用部分:外壁、2階床、屋根
所在地:北海道士別市朝日町中央4527番地89
◇特徴的なV字壁
最も印象的なのが、スキージャンプをイメージしたV字壁と斜行壁です。V字壁には、同じ厚みと同じ幅のラミナを直交させて積層・圧着させたCLTが使われていて、その上にラミナを貼り仕上げています。1階天井部分の梁柱構造に、大型パネル(短辺方向最大9mスパン)を2枚重ねることで、無柱のリラックス感のある広々としたオフィスを実現できました。
工期短縮を実現~株式会社大林組仙台梅田寮
株式会社大林組は、持続可能な社会の実現を目指し、長期間にわたって二酸化炭素を固定できる木造・木質化建築に積極的に取り組んでいます。壁に使うCLTパネルと天井をユニット化するCLTユニット工法を開発し、高品質かつ短工期での施工を実現しました。
◇概要
株式会社大林組仙台梅田寮は、1階がRC造、2、3階部分が木造のハイブリッド構造で、建物4棟が中庭を囲む設計になっています。国産スギ材を925m³使用した建物は、536tの二酸化炭素を固定することが可能です。木のぬくもりを感じられ、利用者の健康と住まいの快適性の向上効果を期待できます。
竣工年月:2023年3月
延べ床面積:3,677.47m²
CLT利用部分:壁
所在地:宮城県仙台市青葉区梅田町1丁目
◇CLT工法で工期短縮
これまでは、CLTパネルを現場にパネルを搬入してから組み立てていましたが、組み立てたユニットを搬入するCLTユニット工法を採用しています。門型の形状に組み立てるのが特徴で、これにより中型の4tトラックでの運搬も可能です。
事前に、約120個のユニットを組み立てておくことで、S造とよりも工期を約1.5ヵ月短縮できました。株式会社大林組のCLTユニット工法は、ユニットの品質確保、人件費削減、騒音・振動の低減にも効果を発揮します。
CLTの現しが特徴的な兵庫県林業会館
兵庫県林業会館は、構造体CLTを現しで使用している耐火建築物です。CLTパネル、フローリング、椅子などに兵庫県産の木材を利用することで、サスティナブルな社会の実現と森林サイクルの促進に貢献しています。
◇概要
鉄骨ラーメン構造とCLT耐震壁を組み合わせた地上5階建てのビルです。ハイブリッド構造で、防火性と耐震性に優れています。壁、フローリング、内装材、椅子に至るまで地元の木材を使用することで、循環型林業にも貢献しています。メディアで取り上げられ、2022年日本建築学会作品選集新人賞、令和元年度木材利用優良施設なども受賞している建築物です。
竣工年月:2019年1月
延べ床面積:1,567㎡
CLT利用部分:外周部
所在地:兵庫県神戸市中央区北長狭通5丁目5-18
◇CLTパネルを現しで使用
防火地域では建築基準法に従い、屋根、壁、柱、梁、床など建物の主要構造部に耐火性能に優れた建材を使った、耐火建築物を建てなくてはいけません。兵庫県林業会館のあるエリアは防火地域で、兵庫県林業会館はCLTパネルを現しで使用した最初の耐火建築物です。
CLTパネルとガラス壁を交互に配置することで、建物全体が市松模様になっています。木目を生かしたスタイリッシュな印象で、ライトが灯る夜はさらに斬新なデザインが引き立ちます。
開放的な環境であるニセコ町に位置するルピシアの新本社や、トイグループホールディングスの新社屋、さらには株式会社大林組仙台梅田寮や兵庫県林業会館など、CLTを活用した建築事例を紹介しました。
これらの建築物では、CLTと軸組在来工法を組み合わせることで、厳しい気候条件にも対応できる安全な建物が実現されています。特に、北海道や宮城県などの厳しい気候条件下での建設が行われており、CLTの特性を活かした設計や工法が工期の短縮や耐久性の向上に貢献しています。
また、これらの建築物は地元の木材資源を活用し、サスティナビリティや地域貢献にも配慮しています。耐火性能を持つCLTパネルを活用したり、循環型林業の促進を図るために地元産の木材を使用したりしています。
これらの事例は、CLTを活用した建築が持つ潜在的な可能性や、地域の環境条件に合わせた設計・施工が重要であることを示しています。また、持続可能な社会の実現や地域コミュニティの発展に向けた取り組みが反映されている点も注目されます。