CLT建築を火に強い設計でパワーアップする~素材だけではない日本の技術
CLT建築を火に強い設計でパワーアップする~素材だけではない日本の技術
2023/07/31
CLT(Cross-Laminated Timber)は、複数の木材層を交互に重ねて接着し、大型の板状構造物を形成する工法で、伝統的な木材に比べて強度が増大します。しかし、木材である以上、耐火性についての懸念があります。次に、CLTの耐火性とそれを生かした設計技術について解説します。
CLTの耐火性能は?火災に強いCLTの特性
◇CLTの耐火性能
1つ目は、「燃え代設計」です。これは、CLTを屋内側に露出させる方法で、特別な防火処理を施さなくても45分から1時間の準耐火構造を保証します。火災時には特定の断面の木材が燃焼し、構造物の安全を保つ役割を果たします。
2つ目は、「防火被覆設計」です。CLTの表面を準不燃材料で覆うことで、木材の炭化を遅らせ、火災から建物を保護するものです。この被覆により、火災が発生しても一定時間、木材が燃焼することなく、建物の強度を維持することができます。
被覆材料には石膏ボードやセメントボードなどが使用され、これらの材料は熱を吸収し、炭化層を形成することで火の進行を遅らせます。その結果、火災が発生した場合でも建物が一定時間内に倒壊することなく、住人や訪問者が避難する時間を確保することができます。
◇燃え代設計とは
「燃え代設計」は火災に対する耐性を高めるための独特な木造建築設計方法です。
この設計では、建物の支持構造となる柱や梁の太さを通常必要な太さよりも厚く設計します。これにより、追加された部分、すなわち「燃えしろ」が火災によって燃え尽きても、建物の基本的な構造は保たれます。
火災が発生した場合でも、「燃えしろ」が燃焼する間、建物は安定した状態を保ち続けます。このため、住人には安全に避難する時間が確保され、火災のリスクを大幅に軽減することが可能となります。
CLTをさらに耐火建築物にする技術~強化石膏ボード被覆
CLTの防火被覆設計により強化石膏ボードを被覆することで火災が発生しても一定時間建物の強度を維持することを紹介しました。強化石膏ボード被覆により耐火性能がどのくらい向上するのか、具体例と合わせて解説していきます。
◇強化石膏ボード被覆による効果
CLT構造物に強化石膏ボードを被覆することで耐火性能が大幅に向上します。強化石膏ボードは熱を吸収し、火の進行を遅らせる性質を持っています。そのため、火災が発生してもCLT自体が直接炎に晒されることなく、一定の時間(この場合2時間)建物の強度を維持することが可能です。
この被覆によりCLTだけでも14階建てまでの建築物が可能となります。これは、高層建築物では火災による危険が増すため、より高い耐火性能が求められるからです。強化石膏ボードの被覆は、建築物の安全性を高めるための重要な手段となっており、高層木造建築の現実化に大いに寄与しています。
◇強化石膏ボードを被覆し建築例―10階建て高層集合住宅
この建物では床には2時間耐火仕様のCLT耐火床システムが使用されています。このシステムは、構造性能や耐火性能だけでなく、集合住宅の床で求められる遮音性能や防水性能などを兼ね備えています。
そのため、湿式材料である石膏系のセルフレベリング材やトップコンクリートが採用されています。これらの材料は耐火性能を持つだけでなく、遮音性能や防水性能も備えています。このCLT床耐火システムは、CLT活用建築物等実証事業における2時間耐火試験を通過し、国土交通大臣の認定を得ています。
CLTと耐震壁、そして鉄骨フレームの接合部には、ドリフトピンを用いた専用の金物が開発され、使用されています。この接合方法の有効性と、CLT耐震壁の構造性能を確認するために、1/2スケールの試験体を作製し、実際に構造試験が行われました。
また、この建物の構造と工法には、鉄骨造とCLT床、CLT耐震壁に加えて、燃え止まり型の耐火集成材柱が採用されています。これにより、CLTの持つ環境性能と安全性能を最大限に活かしつつ、さらなる防火性能と耐震性能を実現しています。
このような工夫と努力により、この建物は木材という素材の持つ温もりと美しさを活かしつつ、都市部でも十分に利用できる高層建築物として実現されました。
CLTの活用と建築の将来像
木造建築はこれまで「もろい」「火事に弱い」といったイメージが強くありました。しかしCLTの出現により木造の高層ビルが増加しています。CLTを取り巻く環境は大きく変わりつつあります。技術的な面だけでなく法的な面でもCLTや木質材の活用を後押しされています。
2021年10月に施行された「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」(通称:都市(まち)の木造化推進法)によって、公共建築物に限定していた木材利用促進法が民間建築物も含む全ての建築物へ拡大されました。これは、木材の活用を通じて脱炭素社会の実現へ貢献することを目指しています。
この法改正に伴い、CLT(Cross Laminated Timber:交差集成材)の利用を促進するための規制改革も進められました。具体的には、建築物の構造や防火規制が合理化され、中高層の耐火建築物の下層階に必要な耐火性能が2時間から90分に短縮されました。これにより、木造の壁や柱などに必要な石膏ボード等の被覆の厚さを削減することが可能となりました。さらに、2022年度(令和6年度)には、屋根や柱といった部分的な木造化が認められるようになりました。
これらの規制緩和により、多様な木造建築物の設計が可能となり、CLTを活用した建築物の建設がより進めやすくなっています。CLTを中心に日本の建築状況が変化していることがお分かりかと思います。