海外と国内におけるCLTの普及を解説
海外と国内におけるCLTの普及を解説
2024/06/28
CLT(Cross-Laminated Timber)は、1994年にオーストリア・グラーツ工科大学のゲルハルト・シックホーファー教授によって提案された新しい建材です。この技術では、木材の合板技術を応用し、90度回転させた薄板を重ねてシェル構造を形成し、収縮や膨張を制御しながら強度を高めます。
1995年頃からオーストリアでの開発が始まり、木材産業との協力により高品質な製品が生まれ、環境への配慮と木造建築の復活を促進しました。日本では2009年に生産が始まり、2016年の建築基準法改正で普及が加速しましたが、設計者や施工業者の知識不足が課題となっています。
海外では大規模なCLT建築が進行しており、オーストリアでは、木造の梁と屋根にCLTを組み合わせた商業施設「G3 Shopping Resort Gerasdorf」が造られました。厚さ120㎜のCLTパネルにEPS断熱材とシート防水を重ねる構造となっています。
また、ブリティッシュコロンビア大学の学生寮「ブロックコモンズ」は、CLTを使用した混構造を採用した18階建ての木造高層タワーを完成させています。。
CLTの発祥
CLT(Cross-Laminated Timber)は、近年注目が高まっている建材です。日本国内に知られたのはごく最近ですが、海外ではさまざまな建築物に使われています。
◇CLT誕生のきっかけ
CLTはシェル構造と面材を組み合わせた新しい建材です。オーストリア・グラーツ工科大学のゲルハルト・シックホーファー教授が1994年に提唱しました。
教授は木材の合板技術を応用し、板を90度ずつ回転させて重ねることで、木材の収縮や膨張を制御しながら強度を確保する方法を考案します。この発想と実践的な取り組みが結びつき、CLTは現在、世界中で注目される建材となったのです。
◇オーストリアを中心に発展
CLTの発展において、オーストリアは中心的な役割を果たしています。1995年頃からゲルハルト・シックホーファー教授らが木材の合板技術を応用し、大規模構造物に適したCLTの開発を先導しました。
木材産業と建築業界の連携により、高品質なCLT製品が普及し、環境への配慮や木造建築の復活が評価され、ヨーロッパ全域や国際市場にも広がりました。オーストリアの成功は、研究開発の先進性と産業協力の成果です。
日本国内での普及
ヨーロッパでの普及を受け、日本国内でもCLTが取り入れるようになっていきます。
◇日本国内でも生産を開始
日本でCLT木材の生産が始まったのは2009~2010年頃ですが、当初は実験的なものでした。本格的な普及のきっかけは、2013年12月にJASの制定、および2016年4月に建築基準法告示の施行です。
この告示により、CLT木材を用いた建築物の構造計算と建築確認が可能となり、それまで必要だった個別の大臣認定が不要となったため、普及が加速しました。
◇CLTの普及が不十分
CLTは工期短縮や軽量化、強い耐震性などの利点がありながら、設計者や施工会社の情報不足や経験不足、調達ルートの未確立が普及を阻んでいます。特にCLTのメンテナンスに関する知識不足も課題です。
しかし、中小規模建築ではCLTを採用する事務所や会社が増えつつあり、設計や施工の普及活動が進む中で需要が増加する可能性があります。これにより、施工者も積極的に取り組む姿勢が期待されます。
CLTの普及に向けた海外・国内の取り組み
海外・国内ともにCLT建材や工法の進化には目覚ましいものがあり、CLT建築の規模も大きくなっています。
◇海外:都市計画への組み込み
大規模な施策のひとつに、フィンランドの「ウッドシティー」が挙げられます。これは、ヘルシンキ市西部で進行中の先進的な木造街区プロジェクトです。
このプロジェクトはオフィス棟、ホテル・商業棟、住居棟、駐車場棟で構成され、街区全体を木造・木質化することを目指しています。各棟は地上8階建てで、1階を鉄筋コンクリート(RC)造としたハイブリッド構造を採用しています。
プロジェクトを支えるのは、木製品製造販売会社のストラ・エンソ社で、木材の調達から加工、輸送、施工まで一貫して行っています。
2019年に住居棟が、2020年にオフィス棟が完成し、他の棟も順次建設が進んでいます。このプロジェクトは、木材利用の合理性とコスト競争力を考慮し、環境負荷を低減しつつ持続可能な都市開発を実現しています。
◇国内:CLTのさらなる普及
林野庁は、CLT活用建築物等実証事業という事業を実施しています。目的は、CLTを木造住宅、集合住宅、オフィスビルなど多様な建築物に導入し、耐震性や省エネ性、快適性などの特性を実証することです。
この取り組みは、CLTの強度と剛性を最大限に生かし、従来の木造建築に比べてより高い耐久性と省エネ性を実現し、木材の質感や温かみを活かした心地よい空間を提供することを目指しています。
また、環境に配慮した建材としてのCLTの利用を推進し、持続可能な社会の構築を目指すとともに、地域のまちづくりを支援する役割も果たしています。
海外のCLT建築事例を紹介
海外のCLTは多岐に渡りますが、ここでは比較的大規模な建築物として、学生寮と商業施設の事例を解説します。
◇ブリティッシュコロンビア大学の学生寮
2017年に完成したブリティッシュコロンビア大学の学生寮「ブロックコモンズ」は、18階建ての木造高層タワーで、高さ58.5m、延べ面積15115㎡、約400人の学生を収容できます。
この建物は、柱や床に木材を使用した混構造で、「マスティンバー」という複数の木材を圧着した強力な集成材が使われています。CLT(直交集成板)は、その主要な材料の一つで、木の繊維が直交するように接着され、軽量で耐震性が高い特徴があります。
CLTは現場で速やかに組み立てが可能であるため、ブロックコモンズの組立はわずか2ヶ月半で完了しました。
◇G3 Shopping Resort Gerasdorf
オーストリアで2012年に完成した「G3 Shopping Resort Gerasdorf」は、鉄骨柱に木造の梁と屋根を組み合わせた商業施設です。高さは最大20m、屋根面積は6万㎡で、CLTメーカーが資材を提供して建設されました。 CLTは屋根構成に使用され、厚さ120㎜のCLTパネルにEPS断熱材とシート防水を重ねた構造です。共用空間の天井は吸音材で覆われ、一部店舗ではCLTが現しとなり、木の質感を活かしたデザインとなっています。
CLT(Cross-Laminated Timber)は、オーストリア・グラーツ工科大学のゲルハルト・シックホーファー教授によって1994年に提案された新しい建材で、木材の合板技術を応用しました。90度回転させた薄板を重ねてシェル構造を形成し、収縮や膨張を制御しながら強度を高めます。
1995年頃からオーストリアでの開発が始まり、木材産業との協力により高品質な製品が生まれ、環境への配慮と木造建築の復活を促進しました。日本では2009年に生産が始まり、2016年の建築基準法改正で普及が加速しましたが、設計者や施工業者の知識不足が課題となっています。
海外では大規模なCLT建築が進行中で、耐震性や省エネ性を高めながら持続可能な都市開発を推進しています。
例えば、オーストリアの「G3 Shopping Resort Gerasdorf」は、CLTを使用した商業施設です。この施設は、木造の梁と屋根にCLTを組み合わせ、厚さ120㎜のCLTパネルにEPS断熱材とシート防水を重ねる構造です。
また、ブリティッシュコロンビア大学の学生寮「ブロックコモンズ」は、18階建ての木造高層タワーで、CLTを使用した混構造を採用しています。これらの事例は、CLTの高い耐震性と速やかな組み立て可能性を示しており、その持続可能な利用の可能性を示唆しています。