CLTが可能にした高層木造建築!木造の高層建築が求められる理由と事例を紹介
CLTが可能にした高層木造建築!木造の高層建築が求められる理由と事例を紹介
2023/09/30
CLTは経年劣化せず、断熱性・耐震性・耐火性に優れた建材です。近年では、CLTを活用した木造高層ビルが注目されています。脱炭素化の取り組みの影響もあり、今後もCLTへの関心は高まっていきます。
木造で高層建築は可能?木造建築が求められる理由
近年、CLTを活用した木造の高層ビルが注目されています。CLTとは1990年代からオーストリアで研究が進められ、活用されている積層された木材パネルです。従来の木材は、経年により反りやうねりなど変形してしまうため、木造の高層建築に向いていません。
しかし、CLTは積層された木材パネルのため、従来の木材とは異なり反りなど経年劣化による変形がなく、断熱性・耐震性にも優れていることから注目されはじめました。そして近年ではアメリカをはじめ、世界中でCLTを活用した建築が進んでおり、日本国内でもオフィスビルの建設が進められています。
木造の高層ビルが求められている理由には、3つの理由があります。
国産の木材を有効活用できる
まず一つ目の理由として、日本国内の木材を有効活用する取り組みが推進されているからです。日本は2576万ヘクタールの面積を森林で占めています。森林蓄積は年々増えており、2017年時点で森林蓄積は52.4億㎥になり、1966年の18.9億㎥と、比べて2.8倍に増加しました。
そして、この増加の主な要因は人工林であり全体のうち人工林が約33億㎥と、約6割を占めています。これは、戦後の木材不足を解消するために植えられた人工林が、今では人口減少や輸入木材によって、収穫時期を迎えたまま放置されてしまっているということです。
こうした理由から国内の木材を活用する一環で木造高層ビルの建設が注目され、オフィスや商業ビルの木造化が進められています。
CLTの普及
二つ目の理由が、CLTの普及です。CLTは木材を直角に積層し接着しているため、反りなど収縮変形しません。そのうえ、強度も高いことから高層の建築でも問題なく使用できる建材です。
オーストリア発祥のCLTは、アメリカ、カナダ、オーストラリアと世界中に広がり、高層建築の木造化がここ10年で急激に進んでいます。また、日本では2015年まで特殊な計算と厳格な審査を行ってからでないとCLTの使用は認められていませんでした。
しかし、2016年に建築基準法告示が施行されたことで特殊な計算や審査が要らず、通常の建物と同様の計算・審査のみで使用できるようになりました。
脱炭素化
三つ目の理由が、脱炭素化です。2020年に日本政府は脱炭素化を目標とし、「2050年までに温室効果ガスの排出をゼロにするカーボンニュートラル」を宣言しました。
これは温室効果ガスの排出量から森林などの吸収量を差し引いて、合計排出量をゼロにするという意味です。鉄やコンクリートの代わりに、木を使用することで二酸化炭素の排出量を減らす効果があります。
日本では、成熟した木材が伐採されず放置されていることで吸収量が減少しており、問題となっています。このカーボンニュートラルを進めるためには、木材を伐採して建材として利用し、植林育成して吸収量を回復する取り組みが必要です。
2010年に公共建築物木材利用促進法が成立、2021年に民間建築物の木造化を促す「2021年には民間建築物における木造化を促進するための法律」が施行されました。脱炭素化と法改正により木造高層ビルの需要が高くなりました。
高層木造建築を可能にしたCLT
CLTは、薄い板(ラミナ)を交差させて積層接着しており、経年劣化での変形もないため活用されるようになりました。日本国内では、東京農工大学を中心とする研究グループが、高い耐火性を持つCLTの開発に成功し、2018年に国内初の2時間耐火構造認定を取得しました。
これにより、CLT外壁が中高層ビルに利用可能となり、2022年には11階建ての木造高層耐火ビルが建設され、現在15階建てマンションが建設中です。また、CLTは従来の建築工事とは異なり、建物の重量を軽量化でき基礎工事の簡素化が図れる、養生期間が不要であるため短期間で完成できるといったメリットもあります。
断熱性、耐震性、耐火性に優れていることから今後も需要が高まっていくと予想されます。
CLTの高層木造建築の事例を紹介
CLTを活用した高層建築物は、日本国内でも増加傾向にあります。
現時点で、CLTを使用している代表的な木造の高層建築物は、次のとおりです。
PARK WOOD ⾼森
PARK WOOD ⾼森は、宮城県仙台市にあるS造+木造の集合住宅です。床と壁にCLTを構造材として使⽤し、CLT耐⽕床システム (2時間耐⽕仕様)を4〜10階の床に採⽤しています。
CLT床についてはトップコンクリートを流し込み、2時間耐⽕仕様の被覆材を取り入れており、遮⾳性能が確保されているのも特徴です。また、1 〜5階部分にはCLT耐震壁を⽤い、 ⼗分な剛性と耐⼒を持ちながら、 建物の軽量化も図っています。
この集合住宅は、CLTと鉄骨を組み合わせたことで、通常の工期短縮も実現しました。PARK WOOD ⾼森以外にもCLTと違う工法を組み合わせた高層階建築物がたくさんあります。
Port Plus
Port Plusは、日本初の高層純木造耐火建築物です。2022年3月に完成し、地上は木造、地下RC造で免震構造になっています。建築主であり施工者でもある株式会社大林組は、新たなイノベーションと企業文化を育むため、次世代型研修施設を高層純木造耐火建築物として建設しました。
このビルは、建物の幅方向は剛接合仕口ユニットを用いたラーメン構造を採用しており、CLT耐震壁と中間梁を設置して、剛性と耐力を確保するよう工夫されています。
また、高剛性、高耐久性、高靭性を実現するために、接合部にGIR工法や超厚合板(高密度木質仕口パネル)を使用する技術を組み合わせています。さらに、事前に工場でユニット化されることで、施工の容易さと工期の短縮が実現されたのも特徴です。
プラウド神⽥駿河台
プラウド神⽥駿河台は、都内にあるRC造+木造の地上14階建て分譲マンションです。建築主の野村不動産株式会社は、⽣物多様性保全と資源の持続可能な利⽤の取り組みを行っており、国産木材を活用する取り組みに尽力しています。
そのため、プラウド神⽥駿河台に使用されている木材は国産のものを使用しているのも特徴です。中層階は、板積層材(LVL)と鉄筋コンクリート造の耐震壁を組み合わせた、LVLハイブリッド耐震壁を採用しています。
一方の高層階は、CLT耐震壁と耐火集成材「燃エンウッド®」の柱が使用されています。
今後の予定
また、東京海上ホールディングスと東京海上日動火災保険は2022年に、東京海上日動ビル本館と新館の建て替えを発表しました。国産木材とガラスを組み合わせた20階建てのビルを建設するとされており、床の構造材にはCLTを使用する予定です。
CLTは、断熱性・耐震性・耐火性に優れている木材で木造高層建築で使用されている建材です。ここ10年でCLTが急激に普及したことや脱炭素化、国内の森林の放置の影響で、木造の高層ビルの需要が高くなりました。
また、国内では国内産の木材を有効活用するために、CLTが注目されており木造の高層ビルの建設が進み、増加しています。壁や床、天井などでCLTは活用されており、機能性もさまざまです。主にCLT耐⽕床システムや耐⽕集成材の燃エンウッド ®の柱など、防火面に優れたものが活用されています。
CLTは、まだまだ可能性がある建材で今後さらに研究が進むことで、より発展し新しい技術と木造高層建築の発展が期待されます。