いま注目の木造高層建築!大手ゼネコンから住宅メーカーまで参入
いま注目の木造高層建築!大手ゼネコンから住宅メーカーまで参入
2023/04/28
高層ビルの多くは鉄筋コンクリートなどの頑丈な建材を使用して建設されています。しかしながら今日ではこのような常識が覆されつつあり、とりわけ木材を使用した高層ビルの建設は大手ゼネコンや住宅メーカーまでの幅広い企業が着手していることから大きな注目を集めています。
このような木材を使用した高層ビルの建設が可能になった背景には建築業界全体での技術革新が大きく関係しており、同様の建造物の建築が国内外で進められています。
木造高層建築
木造高層建築が注目を集めるようになったきっかけのひとつが、大手ゼネコンの大林組による44mの木造耐火建築物の建設です。2022年5月に完成したこの建物は地上11階、地下1階、敷地面積約563㎡、延べ面積約3,502㎡という大規模なもので、主な建材が木材であったことから多くの注目を集めることとなりました。
このような木造高層建築は大林組が完成させたものに限らず、他の企業でも建築が予定されています。例えば三井不動産と竹中工務店では高さ70m、延べ床面積約2万6,000㎡の17階建て賃貸ビルの着工を2023年に予定しており、こちらも完成した暁には多くの注目を集めることが容易に想像できます。
このように今日の建築業界では6階立て以上の木造高層建築へ取り組む事例が多くなっており、大きなトレンドになりつつあります。
木造高層建築が急増する理由
多くの企業が木造高層建築へ取り組むようになった背景には「CLT」という木材が登場したことが大いに関係しています。
従来の建築業界で使用されていた木材には耐震性と耐火性において問題があり、地震や火災発生時のリスクが高い高層建築で使用する建材としては不向きでした。この点においてCLTは木材ならではの低い耐震性・耐火性をクリアしているだけでなく、軽量であるというメリットも伴うことから、高層建築の建材としても適しているのです。
そんなCLTの生産が開始されたのは2010年ごろで、徐々にその知名度を高めていきました。そして、2016年4月からは一般的な建物への利用が可能となったことから、高層建築用の建材としての利用も本格的に検討されるようになったのです。
このことから大手ゼネコンや住宅メーカーもCLTへ注目するようになり、その技術開発には企業だけでなく政府も参加しました。その結果、CLTは実際の建築現場でも使用されるケースが多くなり、2018年ごろからは木造高層建築の着工件数も急激に増加するようになりました。
木造高層建築で活用されるCLTとは?
そもそもCLTはヨーロッパで開発されたパネル型の建材で、その大きな特徴としてはひき板を繊維方向が直交するように積層接着している点が挙げられます。これによってもたらされる高い耐震性はCLTの大きなメリットのひとつであり、とりわけ地震の多い日本においてはこのことがCLTの極めて大きな魅力となっているのです。
また、木材を使用して作られるCLTはコンクリートなどと比較して軽く、このことも高い耐震性を実現している要因として挙げられます。同様に木材ならではの高い断熱性が期待できるCLTには建物内の空間を保温できる点でもメリットがあり、このことは省エネの観点からも注目を集めています。
一方、CLTには工場内で加工を行えることから、実際の建設現場における作業期間を短縮できるという建物を建設する側にとってのメリットもあります。とりわけ高層建築は建設期間が極めて長くなるケースも珍しくないことから、その短縮という観点でもCLTに期待が寄せられているのです。
木造高層建築の安全性は?
木材であるCLTを使用した高層建築に対しては、火災や地震のリスクについて不安を感じる方も多いかもしれません。しかしながら、この点においてCLTは開発段階で耐火性・耐震性を高めることに重点を置いた研究が十分になされていることから、その安全性も非常に高くなっています。
例えば上述した大林組による木造高層ビルの建設事例では、2時間の耐火性があり、最大で耐震等級3級の実現も可能なCLT製の耐火床や耐震壁を使用することで耐火性・耐震性の向上を図っています。それに加え、主要構造には独自開発した耐火性木材のほか、3時間もの耐火性を持つLVLの柱や梁を採用しており、これらとCLTとの相乗効果によってより高い耐火性・耐震性が期待できるようになっているのです。
また、高い遮音性が期待できることから、同ビルでは階段部分にもCLTを使用。建物内部の空間をより快適にする上でもCLTの性能が活かされています。
さらなる木造高層建築の追求
国内におけるCLTを使用した建設技術の普及において、その象徴となる高層ビルを建設した大林組では、その技術を国外で活用することも推進しています。例えば同社ではオーストラリアにおける高さ182m、延べ床面積25㎡、地上39階建ての木造高層ビルの建設を受注。7階から上の階が鉄骨とCLTを採用した木造ハイブリッド構造となることが決定しているこの建物は2022年から建設が開始されており、2026年の完成が予定されています。
一方、東京海上ホールディングス株式会社では高さ100m、地上20 階の新本店ビルの建設計画を進めており、このビルもまたCLTを使用して建設される見通しとなっています。このようにCLTを使用した高層建築の建設計画は国内外で立案されるようになっており、その建設技法は高層ビル建築を行う業界の新たなスタンダードとして、広く共有されるようになることが想定されています。
CLTは火災や地震発生時のリスクが大きかった木材の常識を覆す「新たな木材」として広く使用されるようになりつつあります。今日では高層ビルの建設現場でCLTが使用される事例も多くなっており、その建設技術は国内外で共有されはじめています。とりわけ日本国内では大手ゼネコンや住宅メーカーがCLTを使用した高層ビルなどの建設に着手するケースが多くなっており、各社の今後の動向も注視する必要があるといえるでしょう。