CLTの新たな用途は災害対策?
CLTの新たな用途は災害対策?
2024/07/25
最近の仮設住宅は、災害後の急な住宅ニーズに対応するため、プレハブ住宅や建設型木造仮設住宅が主流です。さらに断熱や防音性を高めるために、CLTを使用した移動式応急仮設住宅が注目されています。
CLTは断熱性、耐火性、遮音性が高く、コストと工程の効率から国際的にも評価されています。これらの住宅は宿泊施設としても利用され、災害時には速やかに応急住宅として機能します。
最近、注目されている仮設住宅とは?
災害などで自宅に戻れない場合の住まいのひとつに、仮設住宅があります。仮設住宅は地震、水害、土砂災害などで自宅が住めなくなり、新たな住まいを自己資金で確保できない人々に対して、国や地方自治体が提供する住宅です。
◇プレハブ住宅
プレハブ住宅とは、構造躯体や壁、天井、床、設備類を工場で製造・組み立てし、現場ではユニット化された部材を組み立てる工法の住宅です。
工場で主要部分を組み立てるため、天候に左右されずに短期間でスムーズに工事を進められる上、現場施工の負担も軽減されるという特徴があります。
そのため災害後の仮設住宅においても活用されており、一般社団法人 プレハブ建築協会のデータによると、2016年の熊本地震では3,000戸以上が建設され、その後も300戸前後が建設されています。
災害向けのプレハブ住宅では、主に木造枠組壁工法が使われ、耐震性や耐風性、防音性が優れ、施工が容易で品質が安定しています。
◇建設型木造仮設住宅
建設型木造仮設住宅とは、現場に資材を搬送して一から建築する木造の仮設住宅です。2020年に熊本県で豪雨災害が発生した際に採用され、740棟が建設されました。住み心地の向上を実現するために、今も進化し続けています。
例えば、建設型木造仮設住宅には「9坪」というルールがあり、収納スペースが制限される点が悩みでした。そこで熊本県では屋根裏収納を採用し、屋根裏に物を保管できるようにしました。
また、洗濯機の設置スペース不足を解消するため、玄関ポーチを屋内に取り込む設計が行われ、屋内で洗濯が可能になりました。
さらに、高齢者が多い地域での被災に対応するため、バリアフリー設計が採用され、玄関から室内のすべての部屋に至るまで段差をなくし、2020年の豪雨災害では全戸数の1割に車椅子用スロープが設置されました。
仮設住宅の課題とは
災害直後は迅速に仮設住宅を提供する必要がありますが、プレハブ仮設住宅建設にはいくつかの課題があります。
◇建設に時間がかかる
仮設住宅建設には、震災で被害に合った土地の整備から始まり、震災で被害に合った土地の整備から始まり、資材の搬送と施工には通常1~2か月ほど必要です。さらに、土地の準備遅延や天候、道路状況により着工が遅れることもあります。
特に被害範囲が広い場合に、仮設住宅の必要数や用地の確保が難しくなった結果、着工が遅れることも少なくありません。
◇断熱と防音
プレハブ住宅は元々断熱性が低いため、断熱材や遮熱対策が必須です。不十分な断熱は結露やカビの発生を促し、健康リスクも高める可能性があり、特にご高齢の方にとっては命に関わる大問題です。
また、音の遮断が不足しているため、隣の音や外部の騒音が居住者のプライバシーを侵害し、快適性を著しく低下させます。
プレハブ仮設住宅では遮音性が不足しているため、近隣からの騒音が問題となり、特に隣家とのテレビの音量を巡るトラブルが発生しました。特に連棟タイプや複数階建ての集合住宅でその傾向があるようです。
CLTの移動式応急仮設住宅に注目が集まる
仮設住宅の建設には、材料の確保や作業員の手配などの一定の時間が必要でしたが、過去の大規模災害の経験を活かして、CLTの移動式応急仮設住宅に注目が集まっています。
◇移動式応急仮設住宅とは
仮設住宅の設置場所で組み立てるのではなく、工場で製造された木造住宅を基礎から切り離し、クレーンで吊り上げてトラックに載せて、現地へ運んで設置する仮設住宅です。
従来の仮設住宅が完成まで約2ヵ月かかるのに対し、移動式応急仮設住宅は設置が迅速であるのが特徴です。できるため、高い移動性を実現しています。さらに、現場到着後約1時間で設置し、入居可能です。
また、移動式住宅はその汎用性から、倉庫や宿泊施設として広く活用されています。これらはレンタルバイク店やリゾート施設で導入されることが多く、さらに保育施設や宿泊施設、イベント用の仮設トイレといった用途でも利用できます。
◇CLTを使った移動式木造建築
CLTは薄板を一方向に並べて接着し、その上に別の方向に板を並べ再度接着する工程を繰り返して製造される木材です。断熱性、耐火性、遮音性を兼ね備えているため、コストと工程の効率性から海外で高い評価を受けています。
この特性を活かしてCLTを用いた移動式応急仮設住宅が注目されています。これらの住宅は平常時にはキャンプ場などで宿泊体験施設として、災害時には被災地へ迅速に移設して応急住宅として活用されます。
さらに、これらの建物は太陽光発電や蓄電池を利用して自給自足が可能で、ライフラインが途絶しても機能するモバイルオフグリッドシステムを備え、給水や排水不要の循環式シャワーとバイオトイレも完備されているのです。
CLT移動式住宅の開発事例
こちらでは、実際に被災地で活用されたCLT移動式住宅をご紹介します。
◇CLTセルユニットによる仮設宿泊所
能登半島地震での仮設住宅として、能登リゾートエリア増穂浦に設置されました。板金と黒の焼杉を組み合わせたシンプルな外観と、約50㎡の快適な空間で、内装はシンプルで、心地よいカーペットが敷かれ、2台のシャワーブースとエアコン完備もされています。
さらに、奥の窓は脱着可能で、将来的には木製ユニットを追加してスペースを拡張できる設計となっています。また、移設が可能で、新たな宿泊施設としての活用も見込まれています。
◇CLTによるカプセルトレーラー
国産スギを使用したCLTカプセルトレーラーは、森林保全と温室効果ガスの削減に貢献している、環境に優しいのが特徴です。
外装は白い複合塗膜防水層で仕上げられ、伝統的なカプセルの外見を保ちつつ、内装にはウッディな雰囲気とリラックスできる空間を提供します。
また、LED照明と最新デジタル機器を備え、現代的なニーズに対応しています。この移動可能なCLTカプセルトレーラーは、多拠点生活やグランピングに最適なトレーラーハウスです。
仮設住宅でよく用いられるのがプレハブ住宅です。工場で製造された部材を使用して現場で迅速に組み立てられるため、天候に左右されずに短期間で住宅を提供可能です。2016年熊本地震では3,000戸以上がこの方法で建設されました。
一方、現場で一から建築される建設型木造仮設住宅も増加傾向にあります。しかし、これらの住宅は施工期間が長引くことが課題とされており、断熱や防音性の不足も指摘されています。
そのようななか、CLTを使った移動式応急仮設住宅が、災害時に迅速な住居提供の解決策として広く注目されています。工場で事前に製造されたこれらの住宅は、現地に運ばれてからわずか1時間で設置完了し、直ちに入居可能です。
CLTはその優れた断熱性、耐火性、遮音性で国際的にも評価され、平時にはリゾート宿泊施設として、災害時には迅速に展開可能な応急住宅として活用されます。