CLTで木造建築に現しを使用するためには?
CLTで木造建築に現しを使用するためには?
2024/05/30
「現し」とは、建築において柱や梁などの構造体をあえて露出させる仕上げ手法を指します。この手法により、木材の温かみを感じる空間が生み出され、現代建築においても住宅や公共施設に取り入れられることが増えています。
さらに、CLT(Cross Laminated Timber)の技術を用いることで、現しの表現が中高層建築物にも可能となり、木材の強度と美しさを活かした建築が実現しています。
近年、CLT(直交集成板)を使用した木造建築が注目を集めています。特に、耐火性能を高めたCLTログハウスが、90分準耐火構造認定を取得し、従来必要だった燃え止まり層が不要になりました。この進歩により、CLTの利用が拡大し、特に火災のリスクが高い防火地域でも木造建築がしやすくなっています。
現しとは?中高層の建築物でも使用できる
建築手法のひとつに、「現し(あらわし)」があります。木の温かみを感じさせるため、住宅のみならず、公共施設などでも用いられています。
◇現しとは
現しとは、通常なら壁紙や天井板などの仕上げ材によって隠されている柱や梁などの構造体を露出させる仕上げのことです。この手法では、構造体を隠さずにそのまま見せることで、天井が高く感じられる開放感が生まれます。
また、むき出しになった構造体が空間のアクセントとなり、デザインや空間の個性を引き立てる役割を果たします。これにより、空間により一層の広がりや奥行きが生まれ、モダンでスタイリッシュな雰囲気を演出することが可能です。
◇CLTで現しが可能に
ある大手ハウスメーカーは、都市部の耐火建築物において、通常は隠蔽されるCLTを露出させる「現し」の部材として利用できる「ハイブリッド構造」を開発しました。
この構造は、鉄骨の柱・梁(はり)フレームとCLT耐震壁で構成されており、CLT耐震壁を鉄骨フレームで拘束することで、木材の強度を最大限に引き出せます。また、この構造は一般的な鉄骨造の建物にも導入可能であり、超高層の建築にも適用できるとされています。
これにより、CLTを露出させることで空間に自然な温もりと美しさをもたらし、建物のデザイン性や耐震性を向上させることが可能となりました。
中高層の建築物で現しを使用する際の問題点とは?
中高層建築物での現し使用は多くの利点を持つ一方で、いくつかの問題点も伴います。
◇内装制限がある
内装制限に関しては、特殊建築物等を含む内装において、壁や天井などの室内に面する部分の仕上げを、政令で定める技術的基準に従って行わなければなりません。
これは、防火上支障が生じないようにするための規定であり、建築物内部の火災の発生や拡大を防ぐための措置です。政令で定められた基準に従って内装の仕上げを行うことで、建物の耐火性や安全性を確保することが求められます。
◇木の現しは難しい
現しの壁や天井においては、防火性を確保するために適切な対策が必要です。通常、多くの建物では壁や天井に準不燃以上の材料が必要とされています。そのため、CLTで現しが実現できた場合でも、防火基準を満たすためにはさらなる対策が必要です。
例えば、CLTの壁や天井には防火性のある塗料や塗装、防火被覆材を施すことで、耐火性を高めることが考えられます。また、壁や天井に適切な防火壁を設置することも一般的な対策のひとつです。これらの対策によって、現しの壁や天井においても防火基準を満たし、安全性を確保することが可能です。
CLTで現しを使用するための工夫とは?
CLTで現しを使用する際は、防火性や耐火性を高める必要があります。主な工夫を解説します。
◇燃えしろ設計
燃えしろ設計は、準耐火構造の建物を建てる際に、柱を太くして燃えしろを作り、柱の表面が燃えても建物が崩壊しないように設計することです。
この設計では、柱や梁などの各部材が、火災時に耐えられる重みを計算し、定められた時間(30分、45分、1時間など)炎に耐えられるように設計されます。通常よりも柱などが太くなりますが、火事の際には部材が燃えても、一定の時間建物が崩壊せずに持ちこたえられます。
消火活動が行われる間に、建物の崩壊を防ぐことで、住民の安全を確保し、建物の寿命を延ばすことができる重要な設計手法です。
◇ボードによる被覆
ボードによる被覆とは、燃えしろ設計の一環として、燃えやすい素材である柱などの部材を火災に強いボードで覆うことで、構造部を炎から守る設計手法です。木造住宅では、木造軸組パネル工法として知られ、この工法に使用されるボードは、防火性が高いだけでなく、断熱性も兼ね備えています。
なお、一定以上の防火構造や耐火構造を確保できる場合は、大臣認定等の取得が可能となり、ボードによる被覆を使わずに施工できます。
◇難燃化塗料の使用
難燃性を持つ塗料をCLTに塗装することで、CLTを準不燃材として認め、現わし仕上げが可能になります。これにより、CLTの構造躯体を露出させた内装を実現し、建築のデザイン性や柔軟性を広げられます。近年では、国土交通大臣認定を取得した難燃性塗料も登場しました。
CLTにより木造建築の幅が広がった
近年、木造建築3階建てのCLTログハウスが話題となりました。
◇さまざまな条件で現しが取り入れやすくなった
従来における構造では、木造あらわし(燃えしろ層)の内側に不燃材(石こう等)の燃え止まり層があり、さらにその内側に木製構造材がある3層構造とされています。
しかし、このCLTログハウスは、耐火性能を高めて90分準耐火構造認定を取得しました。そのため、現しを取り入れた燃焼を止めるための「燃え止まり層」も不要となっています。
従来のこの成果により、日本の建築業界において、CLT(直交集成板)の普及が拡大し、防火地域におけるCLTログハウスの可能性が示されました。
◇防火地域でも木造建築が造りやすい
防火地域とは、都市計画法に基づいて指定される特定の区域で、主に建物の密集が見られる市街地や主要な幹線道路に隣接しています。
この地域は火災の広がりを防ぐために、建築に関する厳格な規制が設けられており、特に建物の高さや面積が特定の基準を超える場合、耐火性能を備えた建築物である必要があります。これにより、火災被害の拡大防止を図っています。
難燃処理を施した木材を使用し、CLTを覆うことで耐火性能を高めることが可能になりました。この新しい構造は、現場での施工工程が必要であるものの、難燃処理を施した木材を使用することで、防火地域でも木材建築が容易になります。
「現し」という建築手法は、構造体を見せることにより、素材感を生かしたデザインを実現します。この技法を活用することで、柱や梁など通常隠されがちな部分をあえて露出させ、建物に開放感と美的なアクセントを加えることができます。
近年、この手法は住宅や公共施設に限らず、中高層の商業ビルやオフィス空間にも採用されるようになり、木材の自然な風合いと暖かみが現代の建築に新たな魅力をもたらしています。
特に、CLT(Cross Laminated Timber)技術の使用により、耐火性と強度が高い木材が開発され、それを用いた現しの実現が中高層建築物にも拡大しています。CLTは多層に積層された木板を特殊な方法で接着し、一般的な木材よりもはるかに高い強度を持たせることが可能です。
この技術を活用することで、木の温かみを感じる空間を高層ビルの中にも創出し、都市部の建築物でも自然素材の美しさと機能性を兼ね備えたデザインが実現可能になりました。これらの技術革新により、建築物のデザイン性だけでなく、耐震性やエコフレンドリーな要素も強化され、建築業界における木材の利用範囲が大きく広がっています。